我が国の固有鳥類の一種であるヤマドリの人工林環境利用を解明するために、まず非狩猟地域である宮崎県南那珂郡北郷町において、直接観察による個体数推定と環境利用を調べた。その結果、広葉樹林の利用が多いものの、混交林に近いほど、人工林環境もよく利用することが明らかになった。つぎに野外における個体数回復のために積極的に行われている放鳥事業を利用し、栃木県矢板市において放鳥個体に発信器を装着して行動を追跡したところ、食肉性哺乳類や猛禽類に捕食されることによる死亡率がかなり高いことが示され、季節によっては生存率がかなり改善されることが明らかになった。比較的長期間生存した個体を対象に、行動圏面積と環境利用を調べたところ、行動圏はメスに比べてオスで有意に広く、行動圏内での植生に対して特別の選好性は認められなかった。東京都八王子市において、野外個体を捕獲し、発信器を装着して追跡したところ、1年を通じ、約10ha以内の範囲内を行動しており、季節的に面積に変化を生じることが明らかになった。また、1羽のメスと長期間一緒に行動し、途中で別のメスが関与したが、つがい関係は継続していると思われた。さらに樹上ねぐらだけでなく、地上にもねぐらをとることが明らかになった。狩猟期に捕獲された個体のそのうを各地から収集し、内容を解析した結果、葉部や果実・種子部を多く含むこと、葉部ではシダ類が多くを占めることが明らかになった。果実・種子部では、とくに頻度が高く出現する種は認められなかった。これらの結果から、ヤマドリは、常緑針葉樹林(とくに人工林)や広葉樹林といった高層木の植生に依存した選好性は示さず、狩猟期でのシダなどの林床に生育する植物に依存していることが明らかになった。今後、ヤマドリの生息域、個体数の保全のためには、これらの結果が有効に利用されると考えられる。
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