本病原菌はスギ雄花のみならずヒノキ、ヒバ及びコノテガシワの各雄花からも感染する多犯性花器侵入病菌である。本病菌にとって雄花は最適の侵入門戸である。そこで、本課題では「なぜ、本病菌は雄花を侵入部位とし得たか?」、その「理由」を科学的に明らかにすることを目的に研究を遂行した。雄花は本病菌の感染時に、非生物的及び生物的の両面において重要な役割を果たしていることから、非生物的因子として花粉粒及び水分の影響を検討した。また、雄花には多くの微生物が存在しており、感染時には既存の雄花生息性微生物の影響を受けるのは必至である(生物的因子)。そこで、生物学的因子として雄花に生息する菌類群及び細菌群の影響を検討した。花粉懸濁液をもちいた発芽実験の結果、花粉量に比例して子のう胞子の旺盛な発芽及び発芽管の伸長が見られた。また、スギ花粉抽出液を調べた結果、分液した水層を展開したTLCプレート上において糖の存在が確認された。また、ニンヒドリン試薬によりアミノ酸の存在も確認された。したがって、これらの糖とアミノ酸が胞子発芽と発芽管伸長の栄養源となっている可能性が示唆された。一方、感染時における子のう胞子の発芽を抑制する雄花生息性微生物を探索した結果、菌類としてEpiccocum属菌、細菌類として2種類の細菌が子のう胞子の発芽を抑制し、発芽抑制物質の分泌が予想された。以上の結果、本病菌は雄花に到達後、花粉粒中の糖やアミノ酸によって感染を有効に進める反面、雄花生息性微生物群によって感染阻害を受けていることが示唆された。このように、雄花は本病菌にとって有益な感染部位であるとともに、他の微生物との葛藤の場であり、本病菌の感染戦略上、重要な器官であることが明らかになった
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