研究概要 |
1.リグニン前駆体およびその誘導体の被酸化能を、計算化学によるHOMOの予測値および電気化学による酸化還元電位の実測により評価した。その結果、メトキシル基の存在によりHOMOの上昇と酸化還元電位の減少が明確になり、p-クマリルアルコール<コニフェリルアルコール<シナピルアルコールの順で酸化されやすいことを証明した。また、アルコキシル基の鎖長は被酸化能に影響を与えないことを明らかにした。しかし、これらの序列は酵素による酸化速度の実測値とは一致せず、メトキシル基の立体障害が影響を与えていると考えた。 2.酵素の結晶構造を基にした分子力学シミュレーションによる活性サイトでの立体障害を解析した結果、コニフェリルアルコールのメトキシル基の立体障害は大きくないが、3,5-両置換のシナピルアルコールでは大きな立体障害が発生した。したがって、コニフェリルアルコールに対する酵素の高い活性作用は低い立体傷害と高い被酸化能に起因すること、シナピルアルコールが高い被酸化能を有するにも関わらず活性作用が低いことは、大きな立体障害が生じるためであることを明確にした。また、これらを総合的に解釈することにより、リグニン前駆体混合系の脱水素重合では、立体障害的に有利なリグニン前駆体が先に酸化されてラジカル化し、酵素から放出した段階で電気化学的に有利なもう一方のリグニン前駆体にラジカルを転移するというモデルを明確に説明できた。 3.同様の手法により、2量体から3量体に重合が進むモデルを解析した。β-0-4結合2量体の計算化学解析により、グアイアシル核ではエリスロ<スレオ、シリンギル核ではスレオ<エリスロの順で酸化されやすいことがわかった。したがって、針葉樹リグニンはスレオ型が次々と重合しやすく、広葉樹リグニンはエリスロ型が重合しやすいこととなり、樹木中での両者のリグニン結合様式の実測値と定性的に一致した。
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