昨年度の研究において、日本産カキノキの黒色化部(俗にクロガキと呼ばれる)や同属のコクタンの心材部で、ホウ素含有量が特異的に高いことが明らかとなり、カキノキ属の樹木の黒色化と耐朽性の間の強い相関が示唆された。しかし一般に、樹木の心材部は耐朽性が高いため、樹種に関係なく、心材化に対しては常にホウ素が関与する可能性がある。そこで今年度はカキノキ以外の樹木を対象としてホウ素含有量を測定し、心材化とホウ素濃度の関連の有無などについて検討した。 心材の着色が顕著な樹種を中心に、国産の広葉樹7樹種、針葉樹2樹種、熱帯産材広葉樹6樹種の辺材、心材部、さらに香木(沈香)を供試した。スギについては、異常材である黒心形成に対するホウ素の関与、沈香についてはクロガキと同様、傷害部における癒合組織の形成に対するホウ素の関与に着目した。ホウ素濃度の定量はクルクミン-酢酸法で行った。 その結果、大半の試料で、ホウ素濃度は2〜5ppmと、カキノキ(正常部で数〜十数ppm、黒色部で数10ppm)に比べて低く、辺材と心材の間では、イヌエンジュを除いて、ほとんど差異が認められなかった。唯一、差異が認められたイヌエンジュもカキノキとは逆に、辺材でホウ素濃度が高かった。この理由として、試料木の辺材部に虫害があり、その寄与が考えられる。一般に、マメ科の樹木でホウ素濃度が高いと言われているが、供試したマメ科の樹木(イヌエンジュなど)についてはその特徴は見られなかった。また、スギの黒心でも、正常材の心材や黒心をもつ試料の辺材部と有意な差はなかった。沈香に関しては、比較の対照となる正常部の試料が入手できなかったため明確な判断はできないが、一部の試料で高いホウ素濃度を示したことは注目に値する。 以上の結果より、カキノキの黒色化は他の属にはほとんど見られない、特異な現象であり、そこに関与する黒色部形成の機構解明は木材の耐朽性との関連で興味深いことが判明した。
|