平成15年度は、カキノキの黒変部(クロガキ)及び同属のコクタンについてホウ素濃度の測定を行う一方、ホウ素濃度を制御した栄養でカキノキを育苗し、ホウ素の取込量と生育状況を追跡した。その結果、ホウ素濃度はすべてのカキノキ試料の白色部で約10ppm以下であるのに対して、黒色部では数10ppmあり、明らかにホウ素濃度に差があることが判明した。またコクタンについても、黒色部(心材)と白色部(辺材)でホウ素濃度がクロガキと同様の差異を示し、心材化にホウ素が関与していることが明らかとなった。また育苗実験より、土壌中のホウ素濃度が規定濃度(5.4ppm)の10倍まではカキノキは正常に成長したが、100倍以上では過剰傷害が発生し、茎及び葉のホウ素濃度はカキノキの黒色部と同程度以上であった。 平成16年度はカキノキ以外の樹木を対象とし、心材化、異常組織形成、癒合組織形成とホウ素濃度の関連性を検討した。国内外の広葉樹13樹種、針葉樹2樹種の辺材、心材部でのホウ素濃度の差、スギの黒心形成に対するホウ素の関与、さらに沈香を用いて傷害部における癒合組織の形成に対するホウ素の関与に着目した。その結果、大半の樹種で、辺材と心材の間にホウ素濃度の差は認められなかった。唯一、差異が認められたイヌエンジュもカキノキとは逆に、辺材でホウ素濃度が高かった。イヌエンジュでは辺材部に虫害があり、その寄与が示唆された。また、スギ黒心の心材部のホウ素濃度は、正常材や黒心材の辺材部に比べ有意な差を示さなかった。沈香に関しては、一部の試料で高いホウ素濃度を示し、癒合組織形成との関連性が示唆された。 以上の結果より、カキノキ属の黒色化は他の属にはほとんど見られない、特異な現象であり、黒色部において生物劣化抵抗性が高いことを考えると、黒色部形成の機構は木材保存との関連で興味深い。
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