希少種シナイモツゴの生息地に近縁種のモツゴが移殖放流されたことによって生じるシナイモツゴ個体群への遺伝的・生態的影響を明らかにする目的で、2種の同所的生息地3箇所において、アロザイムを遺伝マーカーに用いて遺伝的タイプの組成を調査した。また、実験池において、2種間での配偶者選択実験を行い、以下に記す興味ある知見を得た。 1)青森県の桂城公園池の同所的個体群は、シナイモツゴが81.7%、モツゴが18.3%の組成を示し、2種間での交雑個体は見出されなかった。 2)北海道南部のジュンサイ沼の同所的個体群は、シナイモツゴ6.7%、モツゴ17.8%、F1雑種20.0%、およびF2以降の雑種55.5%で構成され、2種間での高い交雑を示した。 3)ジュンサイ沼と隣接する小沼では、モツゴ85.6%、F1雑種7.8%、およびF2以降の雑種6.6%で構成され、シナイモツゴが見出されなかった。 4)これらの結果から、モツゴの侵入後に生じる2種間での交雑には生息地による違いが認められ、小沼の例が示すように、最終的にシナイモツゴが絶滅する場合が派生することが明らかになった。 5)2種間での交雑がいかに生じるのかを解明するために、実験池において配偶者選択実験を行った。その結果、シナイモツゴとモツゴでは、同種の雄が繁殖なわばりを維持できる条件下では、それぞれ強い同類交配を行うことが示された。 6)一方、繁殖基質が不足する環境条件下では、雄による繁殖基質の争奪で優位となるモツゴ雄に、シナイモツゴの雌が番うことによって交雑が生じることが示唆された。
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