本研究は、近縁種モツゴの人為的移入によるシナイモツゴへの遺伝的生態的影響を把握するとともにシナイモツゴの保全施策を確立することを目的として調査を実施し、以下の研究成果を得た。 1.1950年代以前にはシナイモツゴの単独生息地であった本州東北地方および北海道の湖沼において、既にモツゴのみが生息する場所と両種が混生する場所が見出された。 2.シナイモツゴとモツゴが同所的に生息する3つの湖沼(青森県の桂城公園、北海道南部の小沼およびジュンサイ沼)において、アロザイム遺伝子マーカーを用いて集団組成を調査した結果、桂城公園では2種の個体だけで構成されたのに対し、小沼とジュンサイ沼では2種の個体の他にF1雑種、戻し交配個体あるいはF2以降の雑種個体で構成されることが示された。 3.2種間での交雑要因を明らかにするため、水槽実験によって配偶者選択を調べた。その結果、各々の種では雌は大型の雄と配偶することを選択することが示された。しかし2種間での配偶実験では、雄の体サイズがモツゴの方が大きかったにもかかわらず、強い同類交配の存在が認められた。 4.2種間で繁殖基質に対する雄間競争を水槽実験によって調査した結果、各々の種では大型の雄ほど基質獲得成功が高いことが示されたが、水槽内での繁殖基質の位置によって種間に基質獲得の成功度に相違が認められた。 以上の結果から、2種が同所的に生息する場合、繁殖基質が乏しく、水深等の物理的環境要因が均質である条件下では、モツゴの雄とシナイモツゴの雌の間で交雑が生じ、シナイモツゴの雌の配偶子が交雑によって浪費されることを介して、シナイモツゴがモツゴに置換されるモデルが妥当である。一方、その反対の条件下では、2種で同類交配が働くことによって共存するモデルが妥当であると推察される。
|