研究概要 |
1.産卵過程での産卵抑制因子の作用点の解析と種特異性の検討 ホタテガイ卵巣組織片からのセロトニン(5-HT)による放卵誘起は,頭部・足部神経節(CPG)由来の新規の抑制因子とプロスタグランジンF2α(PGF2α)によって強く抑制される。5-HTによる放卵誘起は卵巣卵の卵成熟の促進を引き起こしたが,PGF2αによる放卵抑制は卵巣卵の卵成熟の抑制をともなわなかった。おそらく,PGF2αによる放卵抑制は,5-HTによる生殖管内の繊毛上皮細胞の繊毛運動の促進に対して抑制的な神経修飾物質として働いていたことによるものと推察された。一方,CPG由来の抑制因子による放卵抑制は卵成熟の抑制によることが明らかとなり,新規の卵成熟抑制因子であることがわかった。しかも,その抑制シグナルは卵膜上の受容体を介して伝えられていることが強く示唆された。このことは,ホタテガイCPG由来の抑制因子によるアカザラガイ卵巣組織,ウパガイ,マガキ,アサリの遊離卵の5-HTによる卵成熟誘起に対する同様の抑制効果からも強く支持された。と同時に,種々の二枚貝に対してこれが普遍的に機能することを意味し,海産二枚貝に普遍的に備わっている機能である可能性が示唆された。 2.中枢神経系から卵巣への伝達経路 5-HTによる放卵誘起は血清成分によって同様に強く抑制され,血球にはその作用は認められなかった。少なくとも,血流を介した神経内分泌によって卵巣に伝えられることが示唆された。 3.CPG由来の抑制因子の分離精製 ホタテガイ卵巣組織からの5-HTによる放卵誘起もしくは5-HTによるアサリ遊離卵の卵成熟誘起に対する抑制作用を指標に,陰イオン交換・疎水・ゲル濾過クロマトグラフィーによって,分離を試みた。完全精製には至らなかったが,分子質量は52kDaであることが明らかとなった。アサリ卵膜への吸着によって消失したSDS-PAGE上のパンドが52kDaであったこともそれを支持した。この分子を限定分解して内部アミノ酸配列の解読を試みたが,収量が精度良く分析するには足りず次回の検討課題となった。
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