研究概要 |
1.産卵抑制因子の受容と細胞内情報伝達機構の解析 昨年度,新規に見出された産卵抑制因子は,二枚貝に普遍的に機能する卵膜を介したセロトニンによる卵成熟に対する抑制によってもたらされることが明らかとなった。すなわち,本因子は卵成熟抑制因子と考えられた。今年度,この因子の卵膜を介した卵成熟抑制機構の検討を行った。まず,抑制因子はセロトニンによる卵成熟誘起作用に対して,卵膜セロトニン受容体上でのセロトニンとの競合阻害によるものでなく,別の受容機構を介していることが明らかになった。セロトニンによる卵成熟誘起は細胞外カルシウムを必要とし,抑制歯子はカルシウムチャンネルを介した細胞内へのカルシウム流入の抑制に働き,卵成熟誘起を抑制し,続く産卵抑制を引き起こすことを明らかにした。 2.卵膜セロトニン(5-HT)受容体cDNAクローニングと構造機能解析 保存性の高い第6,7膜貫通領域をもとに設計した縮重プライマーで行ったホタテガイ卵巣mRNAを鋳型にしたRT-PCRと,それによって得られた配列をもとにしたRACEによって454アミノ酸残基をコードするオープンリーディングフレームを含む約2kbpのcDNA配列を得た。演繹アミノ酸配列の解析の結果,セロトニン受容体に高い相同性が認められ,7個の膜貫通領域を持ち,Gi結合型である5-HT_1の特徴を持つことが明らかになった。このことはセロトニンによるcAMP合成抑制に始まる細胞外カルシウム流入による細胞内情報伝達機能が推測され,先の抑制因子による細胞外カルシウム流入抑制によるセロトニンの作用の抑制と整合性のある機能が推定された。 これまでの結果を総合すると,二枚貝の産卵は水温などの外部刺激を受け,それがセロトニン作動性神経を介した卵巣内でのセロトニン放出を引き起こす。放出されたセロトニンは,卵膜セロトニン受容体に結合し,カルシウムチャンネルを介した細胞内カルシウム流入を誘起して卵成熟を引き起こす。同時に,生殖管上皮の繊毛運動の活性化を引き起こし,成熟卵の卵巣外への放出を促す。一方,一斉産卵の時に至るまで血清中の卵成熟抑制因子によって卵成熟が待機させられ,プロスタグランジンF_2αによって生殖管内輸送も停止させられ,母貝群の同時一斉産卵の外部刺激を受けた時にそれらの抑制が解除され,セロトニンの卵成熟,生殖管内輸送誘起が働くことが示唆された。今後この抑制解除の仕組みを知ることによって,良質の卵のみを人為的に採卵する技術が実現できるものと期待される。
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