本研究では、体液よりも高張な海水から低張な淡水まで様々な浸透圧環境に生息している魚類の体液調節機構、とくにこれまで殆ど研究例のない環境浸透圧変化に迅速に対応する即時的適応機構の解明を試みた。即時的な体液調節に関与する分子として、低分子ペプチドホルモンであるナトリウム利尿ペプチド(NP)ファミリー、グアニリン(GN)ファミリー、アドレノメデュリン(AM)ファミリーに注目して研究を進めた。NPファミリーについては、魚類には最大7種類の分子種が存在(哺乳類には3種類しかない)することを明らかにした。メダカ、フグ、ヒト間の比較ゲノム解析やニジマスにおける連鎖解析により、NPファミリーは、はじめに単一の祖先分子から染色体の重複により4つの分子種に分岐し、そのうちのひとつの遺伝子の縦列重複により新たに3つの遺伝子が生じて7分子種となったことが明らかになった。また、メダカの5つのNPをペプチド合成し、3種類のNP受容体に対する活性を調べたところ、各々異なる受容体を活性化することが分かり、各分子が異なる機能を担っていることが示唆された。GNファミリーについてはウナギから3種類のリガンドの遺伝子と2種類の受容体(哺乳類は1種類)遺伝子を発見し、3つのリガンドの遺伝子の発現が各々淡水中よりも海水中で高いことを明らかにした。AMファミリーについては、トラフグ、メダカにおいて5種類の遺伝子を発見し、これらの遺伝子の関係を調べるために連鎖解析を開始している。また、哺乳類ではこれまで1種類のAM(AM1に相当)しか知られていなかったが、フグの情報をもとにして、哺乳類のAM2を発見した。さらに、これまで用いてきたメダカ、ウナギ、フグなどに加え、新たな体液浸透圧調節の実験系として、カジカ目降海型回遊魚であるカマキリに注目し、海水適応能力について検討を進めた。
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