1.ヒラメ稚魚の礫石を用いて、日齢査定と成長速度解析手法を確立した。有眼側礫石は変態前と変態以降で成長軸が左回りに90度変化するという特徴を持つことから、輪紋間隔をこの変化に対応させて測定することにより、正確な成長履歴のバックカリキュレーションが可能となった。 2.推定された産卵期は南日本ほど早い傾向が明瞭で、鹿児島県では2月であったのに対して、北海道(石狩湾)では6、7月であり半年近い差が認められた。着底稚魚も産卵期に対応して出現し、九州北部から山陰にかけての南西日本のヒラメ稚魚密度は、北日本沿岸域の5〜10倍高かった。一方、稚魚の主要な餌料であるアミ類の密度をみると、北日本の方が高い傾向が明瞭であった。採集されたヒラメ稚魚の胃内容物量は、アミ類の分布密度と有意な正の相関関係を示しており、北日本の方が稚魚の摂餌率が高いことがわかった。ヒラメ稚魚の日間成長速度は、北日本で採集された稚魚の方が南日本の稚魚よりも有意に高かった。これは、稚魚の摂餌状態によく対応しており、北日本では稚魚密度が低く餌生物量が多いことから、着底成育場の餌生物を巡る環境は、北日本でより良好なことが示された。着底稚魚密度は南日本の方が高いのに対して、成魚の漁獲量に南北差はなく、北海道、青森県、福島県、福岡県、長崎県などでの漁獲量が最も多い。このことは、南日本では北日本と比較して着底後の減耗が大きいことを示唆している。 資源変動における特性と稚魚の生態的な特性の海域差を総合すると、加入量変動機構に関して以下の仮説を立てることができた。北日本では浮遊期の生き残りにより年級群水準が決定され、着底後は、安定して豊富なアミ類資源を摂餌し、成長も良好で年級群水準に影響する大きな減耗は生じない。一方、南日本では、浮遊期の生き残りは比較的安定しているが、着底期のとくに底生期初期に餌不足により大きな減耗が発生している可能性がある。
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