研究概要 |
わが国のシロザケ増殖を過去に振り返って評価するため,遺伝的および生態学的手法を開発・適用した。まず,遺伝的解析に関して,茨城,岩手,アラスカの遠く離れたふ化場集団を用いて,ミトコンドリアDNAとマイクロサテライトDNA両方の変異サイトの検索を行った。昨年度決定したミトコンドリアDNA全塩基配列の情報をもとに,タンパクコード領域を増幅するプライマーを複数設計した。まずND2領域の約1000塩基対の解析を行った。200塩基対ほどの短い領域の中に3つの変異サイトが見つかった。また,ND5,6領域に関して現在解析中である。また,マイクロサテライトDNAに関しては,6つの遺伝子座を検討した。そのうちOke3に関しては変異性が高かった。さらに,岩手集団で最も多様性が高く,茨城集団がそれに次ぎ,アラスカ集団で最も低いという傾向があった。過去の鱗を用いたDNA抽出,PCR増幅手法に関しても検討を行った。2年前の鱗に関しては,特に何もしなくても十分な量・質のDNAが回収されたが,10年以上前の鱗からは量的には十分であるものの,短いDNAしか回収されず定法では長鎖の増幅は不可能であった。そのため,ミトコンドリアDNAに関して,NestedPCRの第一段階としてのPCR増幅プロトコルを開発した。 さらに,回帰率が大きく変化する前,すなわち1995年回帰以降のデータを用いて,沿岸水温と回帰率の関係を検討した。近年成長の低下と回帰率の低下が同時に起こっていた。また,年齢査定法を再評価する目的で,アラスカおよび岩手で鱗および耳石を採集し,それぞれによる年齢査定結果の相互比較を行った。とくにアラスカふ化場産のものはサーマルマークが付いており,正確な年齢がわかる。今回の調査からは鱗の年齢査定は十分正確であるものと考えられた。
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