研究概要 |
【目的】好中球によって産生される活性酸素は,哺乳類だけでなく魚類の生体防御においても重要な役割を果たしている。本研究では数魚種の活性酸素産生能を比較・検討し,最も高い産生能を持つアユ好中球の特徴を調べた.【材料および方法】外見上健康なアユ,コイ,ニジマス,ワカサギ,ウナギ等の腎臓造血組織(好中球の産生・貯蔵部位)および血液から白血球浮遊液を作製した.また,アユおよびコイの腹腔に大腸菌ホルマリン死菌を接種(40μg/g)した後,腎臓,血液および腹腔からも白血球を回収した.好中球の活性酸素産生能の測定はフローサイトメトリー(FC)とルミノール依存性化学発光(CL)法を用いた.FC法では,活性酸素分子種の1つであるH202とdihydrorhodamineが反応することにより起こる緑色蛍光(FL-1)を活性酸素産生能の指標とした.すなわち,FSC vs.SSCドットプロット上で好中球集団にゲートを設定し,ゲート内の細胞のFL-1平均蛍光強度を求めた.【結果】健康魚から得た腎臓好中球をPMA(phorbol myristate acetate)刺激後,FC法にて測定したところ,平均蛍光強度はアユ,コイ,ニジマス,ワカサギ,ウナギでそれぞれ,805±156,191±61,560±469,199±117,46±16であった.また血中好中球では,アユ,コイ,ニジマスでそれぞれ1039±148,303±43,135±42であり,アユ好中球が他魚種よりも極めて高い活性酸素産生能を持つことがわかった.また,同様の測定をCL法でも行ったが,アユは他魚種に比べ明らかに高かった.次に,菌接種12時間後のアユおよびコイの好中球の活性酸素産生能を調べたところ,コイでは腎臓→血中→腹腔と好中球が移動するに伴い,平均蛍光強度は148±41→303±28→403±59と段階的に増加したが,アユでは腎臓で既に高く,移動に伴い増加することはなかった.また,この傾向は刺激剤としてザイモザン,オプソニン化ザイモザン,ザイモザン処理血清などを用いた場合も同様であった.このようにアユでは,健康個体の腎臓より得た好中球(resting neutrophils;RN)と菌接種部位から得られた好中球(inflammatoryneutrophils;IN)で活性酸素産生能は変化せず,プライミング効果は認められなかった.アユ好中球のプライミングの有無を確認するため,食食・付着能などの他の好中球機能を調べたところ,RNに比べINでは明らかな亢進が認められ,活性酸素産生能以外の機能ではプライミング効果が確認された. 【考察および結論】このように,アユ好中球はRNの状態でも,すでに高い活性酸素産生能を持つという他魚種に無いユニークな性質を持ち,「短命なアユ(通常1年)にとって,高い活性酸素産生能を持った好中球を常備し,病原体に即時応答ができるほうが,生体防御の観点から有利ではないか」との仮説が得られた.
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