研究概要 |
魚類は様々な環境変化に対してコルチゾル分泌に伴うストレス反応を示すが,コルチゾルは反応が一過性であるために慢性的なストレス状態を示す適切な指標には成り得ず,優れた指標の開発が要望されている。また,海産魚の仔稚魚期におけるストレス応答が,魚の発育とともにどのように発達・変化するかについても不明な点が多い。申請者は細胞内のストレス応答に着目し,様々なストレスによって発現するストレス蛋白質(HSP)の転写因子であるストレス蛋白質転写因子(HSF)が,慢性的なストレス状態を示す指標になる可能性が高いと考えた。 そこで本研究は,まずマダイを用い,低水温,高水温,低塩分,高塩分,低酸素等の各種環境ストレスに対する耐性やHSFの発現様式を調べ,コルチゾルやグルココルチコイドレセプターとの比較を行った。その結果,HSFはいずれのストレスに対しても12時間以上に亘る発現を示し,コルチゾルよりも優れたストレス指標になることが示唆された。(平成15年度日本水産学会大会発表-講演番号324,投稿準備中) 次に,HSF,コルチゾル等の各種ストレス指標やストレス耐性がマダイ,トラフグ仔稚魚等の発育とともにどのように発達・変化するかについても調べた結果,低酸素を始めとする各種環境ストレスに対する耐性は,いずれも変態期に低下することがわかった。また,HSFの比活性も耐性の変化に関与する可能性が示唆された。さらにコルチゾルストレス反応が稚魚期以降に顕著になることなどがわかった。(マダイ;投稿中,トラフグ;平成15年度日本水産学会大会発表-講演番号274,投稿準備中) 平成16年度以降にはストレスを受けた魚のHSF比活性が,どの程度の期間まで発現するかの詳細を検討するとともに,マダイHSFのクローニングを行い,in situ hybridizationによってどの組織に最も障害が現れるかについて検討する予定である。また,ヒラメやクロマグロについても同様の様相を検討するつもりである。
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