研究概要 |
魚類は外部環境の変化に対してコルチゾルやグルコースの放出に伴うストレス反応を示すが,これらは反応が一時的なために慢性ストレス状態の指標には成り得ない。また,海産魚の各種ストレス応答が,魚の発育とともにどのように発達するかも明らかではない。申請者はストレス蛋白質(HSP)の転写因子(HSF)が,慢性的なストレス状態の指標になると考えた。 そこでマダイの各種環境ストレス耐性やHSF,コルチゾル,グルココルチコイドレセプター(GR)等の発現様式を短期的に調べたところ,HSFはコルチゾルよりも優れたストレス指標になることがわかった。また,高水温ストレスに絞り,HSF比活性が,どの程度の期間まで発現するかを長期に亘って詳しく検討した結果,ストレス負荷の170時間後まで増加が認められ,慢性ストレス状態の指標として利用できると考えられた。 次に,HSF,コルチゾル,ATP関連化合物等の各種ストレス指標や耐性が,ヒラメやクロマグロ仔稚魚の発育とともに発達・変化する様相を調べたところ,これまで調べたマダイ,トラフグと同様に低酸素などの各種環境ストレス耐性が,いずれも変態後に高まることを明らかにした(2004.10.Europ.Aquacul.Soc.No.87,Spain)。また,コルチゾル-ストレス反応やそれに伴う嫌気代謝が稚魚期以降に顕著になること(平成16年度日本水産学会大会発表-講演番号865),コルチゾルの浸漬がストレス耐性やGR発現を高めること(2004.5.Nordic Soc.Fish Immun.Symp.6,p50,Finland)などがわかった。 平成17年度以降は,マダイ等を用い,高ストレス耐性魚を選抜する指標として,HSFの利用性を検討するつもりである。また,海産魚のHSP,HSF等のクローニングを行い,in situ hybridizationによってどの組織に最も障害が現れるかなどを検討する予定である。
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