研究概要 |
平成18年度は,ストレスタンパク質転写因子(HSF)やグルココルチコイドレセプター(GR)が,コルチゾルとともに様々な環境変化に対する高耐性魚を選抜する指標として利用できるかどうかを検討した。すなわち,マダイ稚魚を用い,低酸素,低水温,高水温,低塩分,高塩分ストレス耐性と生残率,異常遊泳率,コルチゾル含量,HSF,GR活性等の各種ストレス指標との関係を調べた。実験は,数百尾のマダイ稚魚に各種ストレスをそれぞれ負荷して異常遊泳を示すまでの時間を測定し,その時間の長い高耐性魚と短い低耐性魚を全体の10%ずつ選出するとともに,各種分析に供するものとした。その結果,どのストレスでも高耐性魚と低耐性魚の異常遊泳を示すまでの時間に著しい差が確認された。次に,コルチゾル含量,HSFおよびGR発現率を測定した結果,高耐性魚と低耐性魚とのグループ間で差のある傾向がみられ,各種指標が選抜のストレス指標に利用できる可能性が示唆された。しかし,カンパチ稚魚を用いて高水温に関する同様の実験を実施したところ,ストレス耐性の違いが1週間経過後に維持されておらず,魚種,選抜手法等に関するさらなる検討が必要と考えられた。 一方,昨年までの研究で,ヒラメ仔稚魚におけるGR発現率の発育変化を調べた結果,低酸素等のストレス耐性の変化やコルチゾルの分泌等に関与する可能性が示唆された。そこで,低酸素等の各種環境ストレス耐性とコルチゾルとの関係を調べた結果,ストレス負荷前に行った短時間のコルチゾル浸漬が,ストレス耐性を増強させる可能性が示唆された。また,事前にコルチゾル浸漬した魚のGR発現率は,無処理のものより高くなる傾向を示した。すなわち,コルチゾルストレス反応が,ストレス耐性の増強に関与する可能性が示唆された。
|