本研究では、農村女性が中心となって事業化し、地域資源を活用しながら恒常的な経済活動を行っている事例を「農村の女性起業」と位置づけ、その実態を明らかにすることで、担い手たる女性たちの成長過程、組織原理の特徴、経営展開にあたって直面する課題、および国家・自治体等による支援施策のあり方に関して総合的に検討することを目的とした。 近年、農村女性起業事例数は増加傾向にあり、事業内容についても、従来の中心的業種であった加工・直売から、農家レストラン、ファームイン、福祉事業等への多角化傾向が看取できる。本研究では、まず、岩手県、福島県の農村女性起業先進事例を対象に行った数回にわたるヒヤリング調査結果からモノグラフ分析を行った。その結果、農業生産・家庭生活・地域運営の諸局面で女性が担っている役割が、起業活動を通して家族内・地域内で可視化され、女性の経済的自立・社会参画の第一歩となっていることが明らかになった。また、かかる農村女性起業が、食農教育、地域文化の伝承、地域福祉といった公共的課題に果たす役割や、女性起業の組織特性として、法人化に際してもメンバーの平等性を重視するネットワーク型の組織運営が目指されている点を指摘した。他方で、女性起業のもつ内在的課題(例えば、資金融資、労働過重)が浮き彫りになったことで、かかる課題解決のために行政等の支援機関が果たすべき役割について検討するとともに、各地に広がりつつある農村女性を中心とした多様なネットワーク形成を通して、農村女性と都市消費者等との連携による経営展開の可能性について指摘した。
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