研究初年目の本年は、基礎的な文献収集に基づく手法の確立を優先的に進めた。一方、これらの手法の有用性を確認するために、具体的な政策課題に即して試行的にモデルの作成、データの適用等まで進めてみる必要もある。当初は、三つの分析課題の中では、貿易が海外の手法も確立され着手しやすいものと予想されたが、むしろ米転作がデータの入手可能性等で取り組みやすいことがわかったので、これを取り上げることとした。 研究の結果、次のようなことが明らかとなった。 第一に、一般分析手法研究については、立法府と行政府の政治力学に関して、表面的な力関係だけを計測するのではなく、1970年、Blondelによって提唱されたViscosityの概念を重視しつつ、潜在的な抑止力をも考慮したモデルを構築することが重要であることがわかった。通説では、日本の国会は、立法過程での形骸化が指摘されているが、諸外国の研究者は、必ずしもそのように評価しているわけではない。このViscosity概念は、行政府と利益団体の力関係でも重要である。政策提案は、通常農水省から出され、利益団体は受身であるが、立案以前に行政府は利益団体の意向を汲み取る。モデルには、これらを十分に組み込むことが必要となる。 第二に、具体的な分析課題として取り上げた米転作については、都道府県別データの収集を進め、県経済連等の利益団体の行動を定式化したモデルを構築し、これを検証した。農協系統の組合組織としての利益団体特性を念頭に置いたモデルは、高い説明力を示した。一方、集落については、市町村レベルのデータが必要となるため、検証は次年度以降に持ち越された。
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