本研究では農林水産省と兵庫県農林水産部における農林水産行政の政策評価を研究対象として取り上げ、政策評価の現状、評価できる成果、改善方策について考察した。評価できる成果としては、客観的データに基づいて、客観的な方法により評価指標を算出し、評価結果を公表することにより、行政の中身をわかりやすいものにした点がある。行政運営の内容を数値化して提供することにより政策論を客観的に議論しやすくしたことは、政策評価の成果として特筆すべきことといえる。行政評価の経験を積み重ねることを通して、職員の政策形成能力の向上や意識改革が進み、国民・県民本位の効率的で質の高い行政や国民的視点に立った成果重視の行政の実現が期待できる。 改善すべき点としては、第一に、政策評価は客観的データに基づいて自己評価するという特徴をもっている。これらの評価手法は、政策評価会や兵庫県農林水産政策審議会という外部の構成員で構成する委員会における意見を反映させる仕組みとなっているが、まだ官僚的な感覚による政策評価という性格をもっており、国民、県民の意見を反映させた評価からは少し距離がある。第二に、農林水産行政の推進により県民の満足度がどれだけ向上したかを計測するアウトカム指標が点検指標として用いられることが望ましいが、利用可能なデータに制約があるため、次善の策としてアウトプット指標が多く用いられている。将来は、アンケート調査等の実施により農林水産行政サービスに対する県民の満足度を把握できるアウトカム指標の構築が必要と考えられる。第三に、兵庫県の農林水産行政評価では、前年度の施策の評価結果を次年度の施策や予算配分に反映させる方法がいまだ必ずしも十分に確立されていない。この点の検討が必要といえる。第四に、両者とも政策評価の方法は事務事業評価が基本である。職員にとっては政策評価の実施が容易であるが、社会指標を用いた県民の視点からの政策評価とは距離がある。将来は社会指標を用いた政策評価へステップ・アップしてゆく方法を検討することが望ましい。第五に、評価指標の目標値設定の根拠が必ずしも明確でない。目標値が低く設定されていれば施策の評価は良く、目標値が高く設定されていれば評価結果は厳しくなる。評価指標の目標値設定の方法を検討する必要がある。
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