EUでは「農業に起因する硝酸塩汚染に対する水質保護に関する理事会指令」(91/676/EEC)を定め、硝酸塩による水質汚染を防止する対策を講じている。この「EU硝酸塩指令」は、農業活動に起因する地表水および地下水の硝酸塩汚染を削減し、あるいは防止するため、EU加盟国に次のような対策を講じるよう義務付けている。 まず、加盟国政府はそれぞれの国内で硝酸塩指令を実施するために必要な法令を整備し、特定のサンプリング地点における地表水および地下水の硝酸塩濃度をモニタリングしなければならない。その結果、硝酸塩濃度がEUの基準値である50mg/l(硝酸塩50mg/lは窒素に換算すると約11.3mg/lに相当)を超えている地域、および適切な対策を講じなければ近い将来に超える危険性がある地域、および水質の富栄養化が進んでいる地域があれば、それらを「硝酸塩警戒地域」(NVZ)として指定しなければならない。 次に、加盟国政府は「適正農業活動準則」(Code of Good Agricultural Practice)を策定し、窒素の投入禁止期間、投入可能な窒素量、窒素の投入方法、一定容量の家畜糞尿貯蔵施設の設置などに関する規定を定めなければならない。NVZに指定された地域内の農業者はこの「適正農業活動準則」の遵守を義務づけられる。 さらに、加盟国政府はNVZにおける硝酸塩汚染の具体的な削減対策として、4年間を1期とする「行動計画」(Action Programme)を策定し、実施しなければならない。行動計画では、たとえば、農地に投入できる有機質肥料(窒素換算)は1ha当たり年間170kg(2002年12月以前は210kg/ha)以下に制限しなければならない。 本研究では、このようなEUにおける硝酸塩汚染対策の現状を分析し、EU農業環境政策の政策手法と政策評価、その特徴と課題、わが国農政にとっての示唆など明らかにした。
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