農地の耕作放棄が増加し、高齢化や後継者流出に直面する家族経営だけでは十分な農地利用が実現できていない一方、農薬の残留、各種有害微生物汚染、BSE等にみられるプリオン病の発生等、食の不安をもたらす事件が頻発し、表示の偽装など人為的要因も相まって食への不安が高まっている。このため、食品産業の一部では、商品戦略の一環としてあるいは高品質で安全な食供給を確実にするため、農業参入により食材の直接生産に乗り出す事例がみられ、それは構造改革特区による株式会社の農地借入認可等によって後押しされている。本研究では施設園芸への参入により生鮮農産物(トマト)供給を拡大している食品製造業の事例、外食店舗で使用する露地野菜の生産とともに、自社以外への販売も目指して米、牛乳生産も開始している外食産業の事例の調査研究を実施した。1年目は主として企業による農業参入の経済的存立可能性を検討した。施設野菜生産は販路確保と独自品種による製晶差別化により収支は均衡していること、また露地野菜生産においても、販路確保を前提として、外食産業の労務管理システム援用によって労働コスト圧縮と不安定な生産オペレーションへの対応により、収支均衡を実現しつつあると観察された。2年目は、企業による農業参入にともない論点となっている株式会社による農地取得問題を対象に制度的条件を検討した。具体的には、株式会社による農地利用の安定性確保(転用等のリスク増大)、規制緩和に伴う市場監視の強化、摘発及び罰則の適用、不法行為の是正・原状回復措置の実施をいかに確保する等の課題対応について、従来の行政システムの事前規制主義から、事後監視システムへの転換が必要であり、行政システムの改変、農業委員会制度の見直し、機能強化が課題であることを提示した。最終年次は、以上の知見を総合化し、現行農地法の農家以外の農地所有・利用禁止規定を緩和する必要、具体的には農地利用の規制解除が望ましく、それに伴い農地所有・利用・転用に関していっそう実効性のある監視・調査・摘発体制の整備と原状回復措置の実行が必要で、「農地利用等監視委員会」(仮称)などの組織・システム整備が課題となる。これらについて、影響力のある民間委員会における提言にも盛り込まれるに至った。
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