近年「食育」の重要性が指摘されるようになり、全国各地で乳幼児から高齢者まで様々な年齢層を対象とした食育が試みられている。しかし、米作り、イモ掘り、野菜の栽培など、農業体験を通して子ども達に食生産の大切さを学ばせる試みは以前から行われており、小中高の学校教育に「総合的な学習の時間」が取り入れられたことで再び脚光を浴びているが、これらは一過性の体験に留まっており、体系的な教育とはなっていないのが現状である。また、子ども達が生きた家畜に触れたり、見たりする機会は大幅に減少している。広島大学附属農場では、遠足や社会見学など地域の幼児及び児童を広く受け入れているが、家畜に触りたがったり、餌をやりたがったりする子どもがいる一方で、触りたいけれども恐くて手が出せなかったり、牛の大きさに驚いて泣き出してしまったり、畜舎に入ろうとしない子どもなど、家畜を見る体験が初めてという行動を取る園児がほとんどであり、「農」や「家畜」との分離を目の当たりにしている。本研究は、食材から食事までを扱う「食育」に加え、家畜を介在した教育を効果的に組み合わせることで、幼児に「食」「食材」「食を支える家畜」の関係性を認識させることを目的とし、そのための基礎的データを収集した。 その結果、幼稚園児の畜産加工食品に対する嗜好性は非常に高いが、家畜に関する知識は乏しく、畜産加工食品と家畜との関連について意識することも少ないことが明らかとなった。幼稚園において動物を飼育することや蔵書絵本の内容を吟味することなどが、家畜に対する園児の意識に大きく影響することが示唆されたことから、今後さらに、幼稚園における飼育動物の実態を調査するとともに、絵本に登場する動物が物語の中で果たす役割や位置付けを動物種ごとに調査するなど、園児を取り囲む環境について調査を進め、家畜を含む生き物教育の充実と体系化をはかることが必要であると考えられた。
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