平成16年度に本申請課題に向けて研究を施行した結果、一部明らかになった点を以下に示す。 1.めん羊成熟脂肪細胞と脂肪前駆細胞との共培養法を確立し、成熟脂肪細胞共存下では脂肪前駆細胞の増殖・分化を促進するという知見を得た。 2.共培養への低濃度プロピオン酸(1μM以下)添加は、脂肪前駆細胞の分化を促進した。これは、プロピオン酸がGタンパク共役受容体(GRP)ファミリーの中のGRP43を介する抗脂質分解作用によることを立証した。しかし、高濃度(5μM以上)のプロピオン酸は、逆に脂肪前駆細胞の分化を抑制すること、これはプロピオン酸がTNF-αの分泌を増加させ、そのアポトーシス作用によるものであることを立証した。 3.共役リノール酸(CLA)、特にtrans:10-cis12はめん羊脂肪前駆細胞の増殖を用量反応的に抑制したが、分化および成熟脂肪細胞形成を用量反応的に促進した。これは核内転写因子PPARγ2mRNAの増加および脂肪滴形成に不可欠なaP2(fatty acid binding Protein) mRNAの増加によるものであることを立証した。以上の結果は、反芻動物によってのみ産生されるCLAがPPARγ2のリガンドとして作用している可能性を示唆し、ヒト、マウス等で報告されている効果とは逆の作用効果を有しているという新知見を得た。 4.転写因子PPARαが反芻動物脂肪前駆細胞の増殖・分化を抑制する遺伝子マーカーとなりうるか否かを検索した結果、分化の進行に伴い細胞内に脂肪滴が増加するとPPARαmRNAの発現は増加し、成熟脂肪細胞でその発現は高く、PPARαのアゴニスト、Wy-14643の培養脂肪細胞への添加はTNF-αの分泌を増加させたこと等により、増殖・分化の抑制マーカーとはなりえないが、脂質代謝制御に関与していることを示唆した。 5.Adipogenesis過程に関与する遺伝子を検索した結果 (1)脂肪組織で特異的に発現する新しい因子、adipogeninを同定し、それは細胞膜に局在する膜タンパク質であることが確認された。脂肪前駆細胞分化過程においてその発現は上向き調節されることより、adipogeninは脂肪細胞分化調節作用に重要な役割を演じている可能性を示唆した。 (2)Gタンパク共役受容体ファミリーの中、短鎖脂肪酸をリガンドとするGRP43の発現がadipogenesisの進行に伴い増加することを明らかにした。
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