研究概要 |
ラット回腸パイエル板の神経線維の分布を伸展標本および切片法により,免疫組織化学的に染色し,光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡により観察し,他の部位の腸管と比較検討した。 「方法」出生直後から16週齢までのウイスター系ラットを用いて,ネンブタール深麻酔下に回腸終末部を摘出しZamboni固定液で固定後,伸展標本あるいは凍結切片法により,コリン性神経はAChE染色し,ペプチド性神経はVIP,Substance P,CGRP等の抗体を用いて免疫組織化学的に神経染色した。また一般神経線維の指標としてPgP9.5の抗体を用いて染色し,光学顕微鏡および走査電子顕微鏡により観察した。 「結果」生後0.5日齢で回腸終末部の粘膜固有層にはリンパ球の浸潤が観察され,生後3-5日齢でリンパ小節の出現がみられ,7-8日齢前後で集合リンパ小節(パイエル板)が観察された。AChEの伸展標本による神経染色では,回腸の筋層間神経叢は格子状の密な分布を示すが,パイエル板付近のその走行は,肥大したリンパ小節により圧迫されて疎な神経叢の分布を示していた。またパイエル板ドーム内部の神経線維は非常に少ない分布を示したが,ドーム辺縁部のM細胞の直下では蜜に神経線維網を形成するように分布し,血管周囲にも多く認められた。走査電子顕微鏡による観察では,数珠玉状の神経線維がM細胞の直下,リンパ球,大食細胞や樹状細胞の周囲に近接するように認められた。 「結語」ラットのパイエル板の神経支配はリンパ濾胞の周囲に密な神経線維網として観察され,これらの神経線維はM細胞,樹状細胞や大食細胞と近接していたことから,消化管内に進入した高分子物質がM細胞を介して,神経線維内に迷入する場所である可能性が考えられた。 これらの結果は,第51回日本実験動物学会総会(長崎5月)で主として光学顕微鏡による結果を発表し,走査電子顕微鏡による結果を第16回国際解剖学会(京都8月)で発表する予定である。 次年度は外科的に神経線維結札などの処置を施して,高分子物質の脳への吸収経路を検討する予定である。
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