骨格筋衛星細胞(以下、衛星細胞)を用いて、動物細胞分化のメカニズムを解明した。この研究成果では、衛星細胞の分化運命は筋肉細胞系譜へと固定されているとの従来の概念を否定する結論に至った。本研究の実験系では、衛星細胞は通常の筋肉細胞培養培地で増殖し、筋管を形成し、最終分化のプロセスを完了する。しかし、筋肉細胞培地で培養した細胞にて、脂肪細胞分化誘導で系譜決定遺伝子と考えられるPPARγを強制発現させると、衛星細胞は筋管形成の代わりに脂肪滴の蓄積を記録した。同様に、筋肉細胞培地の代わりに、インスリン、デキサメサゾン、IBMXを含む脂肪細胞培地で培養することで脂肪滴の蓄積が認められた。このような脂肪細胞としての機能は筋管として最終分化した細胞でも誘導されている。この場合、Myogenic regulatory factor (MRF)にコードしている遺伝子群のMyoDが減少していることが最初に観察された。仮説として設定した「細胞分化は特定の細胞系譜を不可逆的に選択し、細胞の機能を固定するプロセスではなく、個々の細胞系譜の選択は遺伝子の発現によって可塑的に決定されるものである」は最終分化した筋肉細胞が脂肪滴を蓄積するという脂肪細胞独特の機能を表現させることによって明確に証明した。今までの研究成果から、特定の細胞系譜を決定する遺伝子群、特に上流に存在する遺伝子の「不活性化・失活」ではなく「サイレンシング」が細胞の機能を決定しており、細胞の分化、最終分化は実在しないとの結論に達している。この目的には、siRNAを用いた一連の筋肉細胞系譜に貢献するMRF遺伝子のサイレンシングを行い、リアルタイムで遺伝子発現を追跡した結果、MyoD遺伝子が脂肪系譜決定に関与するPPARγ遺伝子を抑制し、骨格筋衛星細胞は筋肉細胞へと「分化」するが、その他の細胞系譜、例えば、脂肪細胞としての潜在一的機能は失われていないことを証明した。しかし、MRF遺伝子群は相互に活性化が可能であるので、先ず第一に、相互活性化プロセスでの序列の決定が必要であり、実験結果から、MRF4が最上流に位置し、これが筋分化のマスター遺伝子候補として挙げられている。MRF4のサイレンシングでは衛星細胞での脂肪滴蓄積が観察されている。
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