脱共役タンパク質(UCP)はミトコンドリア内膜と外膜間に形成されたプロトン勾配とATP合成を脱共役させる。AMP-activated protein kinase (AMPK)はATPの分解産物であるAMPによって活性化される蛋白質リン酸化酵素であり、細胞内エネルギーレベルの低下を感知して活性が上昇する。本研究ではUCPの発現あるいは活性化が細胞のATPレベルを低下させ、AMPKを介して細胞のエネルギー代謝を調節するか明らかにすることを目的とした。 まずUCP1遺伝子ノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスを用いて組織へのエネルギー基質(糖)の取り込みについて調べた。インスリンを投与するといずれのマウスも褐色脂肪組織(BAT)における糖(2-DG)取り込みが亢進した。一方、ノルエピネフリン(NE)を投与するとWTのBATでは2-DG取り込みが亢進したが、KOでは変化しなかった。NE刺激によりWTではBAT組織内のAMP/ATP比が上昇し、AMPKの活性およびそのリン酸化レベルが亢進した。しかしながら、KOではAMP/ATP比、AMPK活性やリン酸化は変化しなかった。つまりBATにおいてはNEがβ3アドレナリン受容体を介してUCP1を活性化し、ATP産生を低下させることでAMPK活性を増大させ、糖の取り込みを促進すると考えられた。またUCP1がこの代謝機能の調節に必須の分子であり、その機能によりAMPKの活性化を誘導するという仮説が検証された。 次にUCPの活性化がもたらすAMPK活性化機構と3つのUCPアイソフォーム(UCP1、UCP2、UCP3)の機能を比較検討するため、UCPの発現を人為的に変化させることが可能な細胞株の樹立を試みた。3種のcDNAをLac-repressor switch systemの発現ベクターに組み換え、いずれのUCPも内在性には発現しないヒト肝癌由来のHep3B細胞に導入した。このうち、機能的なUCP1蛋白の発現をコントロールしうる安定的遺伝子導入細胞株が得られた。しかしながら、他の2つのUCPを発現する細胞は得られなかった。現在、前者について詳細な検討を行なっており、UCP2とCP3の発現細胞の樹立を継続し、その機能について今後検討する。
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