研究概要 |
プリオン病の伝達経路の解明を目的として,実験的に異常プリオンの経口投与による伝達試験を行なった.異常プリオンの具体的な侵入門戸は確定されていない。新生子期の吸収機序を明らかにするために以下の実験を計画した.1.新生子(1日齢)にヒツジスクレイピーの脳乳剤を経口投与し,1時間後のヒツジ脳組織の消化管内局在と異常プリオンの局在を検索した.異常プリオンの検索は抗プリオン抗体を用いて免疫組織化学的に行なった.ヒツジスクレイピーの脳乳剤と正常ヒツジの脳乳剤を別々の新生ほ乳マウスに与え,1時間後に検索した結果,ヒツジスクレイピーの脳乳剤を与えた群では,脳組織は胃・小腸上位の管内に達しており,抗プリオン抗体に対する陽性所見はヒツジの脳組織内と小腸吸収上皮内に認められた.ヒツジ脳組織の一部が,マウスの小腸吸収上皮から取り込まれる可能性が示唆された.2.マウス消化管におけるPrPsc発現の局在を免疫組織化学的検索法を用いて吸収上皮からリンパ系組織への伝達の有無とその動きを明らかにする目的でPrPscを給仕し,3ヶ月間の観察を行なった.全期間を通じてのマウス新生児の十二指腸から結腸までの消化管上皮細胞,粘膜固有層並びに粘膜下組織および筋層には抗プリオン抗体に対する陽性所見は認められなかった.以上の結果は,腸上皮細胞から神経組織に伝達する機構が存在しないか,異常プリオンの伝達が経口摂取後3カ月以上の期間を要する可能性を示唆していると考えられた.3.異常プリオンPrPscおよび正常プリオンと結合するラミニン受容体(LR)の発現・分布について,新生マウス,成マウス,若齢牛ならびに成牛の回腸粘膜組織を用いてその局在を明らかにした.総括;新生マウスにおいて,異常プリオンPrPscがM細胞のみではなく,吸収上皮からも直接吸収される可能性が示唆された.また,異常プリオンPrPscの受容体であるラミニン受容体が成獣よりも若い動物で高率にかつ,広い範囲に発現分布していることは,若齢期の動物が経口的に異常プリオンPrPscを摂取した場合,消化管粘膜からの伝達機構が,これまで推測されていた面膜リンパ組織経由以外の経路として,重要な役割を担っていることが新たに示唆された.
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