研究概要 |
酪農業に重大な経済被害をもたらすリピートブリーディングの対策を講じるため子宮機能異常による不妊牛の摘発および治療法を検討した。まず、子宮における主要な増殖因子とサイトカインの周期的変動を調べた。そのうち上皮成長因子(epidermal growth factor, EGF)は発情後2-4および13-14日目に明瞭なピークを持つ周期的変動を示し、リピートブリーダー牛の約70%ではこれらのピークが消失していることを明らかにした。また、この異常は治療処置を行わなければ持続し、治療処置により受胎したリピートブリーダー牛の80〜90%では、妊娠に先立ちEGF発現が正常化していることも明らかにして、EGF発現異常がリピートブリーダー牛の不妊原因の一つであることを示した。次いで、EGF濃度異常の治療法を検討し、リピートブリーダー牛に対しプロジェステロン徐放剤と高用量(5mg)の安息香酸エストラジオールを組み合わせた治療を施すと約70%の牛でEGF発現が正常化し、その内70-80%の牛は治療後2回までの授精で受胎することを示し、効果的な治療法開発に成功した。一方、授精待機牛においてはEGF発現が受胎性の指標となることを示し、子宮内膜EGF濃度測定を受精卵移植のレシピエント選抜に応用することで受精卵移植後の受胎率が向上することを示した。また、分娩後の子宮におけるEGFの周期的変動が回復する時期とその異常を来す機序を明らかにするため、分娩後の子宮内膜でのEGF発現に影響を及ぼす因子を調べた。その結果、EGFの周期的変動回復には少なくとも8日以上の黄体期の出現が必要であることが明らかとなり、産褥期に短い間隔で排卵を繰り返す牛および子宮回復前に長い黄体期の出現した牛ではEGF発現異常の頻度が高まることが示唆された。
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