本研究では、犬ジステンパー脳炎による脳の器質的変化についてMRIによる検討を行った。その結果、急性発症例では脳実質の炎症性変化や脳室の形状の変化は画像上認められなかった。その結果、感染初期には脳の形態的な変化は乏しく、MRIにより脳の感染の診断はできない場合もあると考えられた。 一方、脳実質の炎症性変化が見られる場合には、脳溝の狭小化、側脳室と第3脳室の拡大、側脳室のラウンディングといった所見が得られ、脳実質の炎症反応だけでなく脳圧の上昇、二次的水頭症の併発がおきていると考えられた。この様な画像所見が得られる場合には、炎症反応が最も激しい時期と予想されるが、急性例と慢性例のいずれの場合にも生じる変化であるか、正確に感染後あるいは発症後どれくらいの時期であるかに関しての詳細は不明であった。 さらに、脳実質に炎症性の所見が見られない場合には、脳室の拡大所見はみられるものの側脳のラウンディングは必ずしもなく、また脳溝も拡大傾向であった。このことから、比較的慢性期では脳委縮による脳室系の拡大がみられるものと考えられた。 今回の検討では、犬ジステンパー脳炎の確定診断として血清中および脳脊髄液中の抗原検査の性についても検討したが、組織学的に感染が認められた症例においても抗原検査では陰性であり、診断には現状では利用できないと考えられた。さらに、生前診断としては最も利用されている図脊髄液中の抗体検査においても今回の検討の結果からは診断の信頼性は低い元と考えられ、犬ジステンパー脳炎の生前診断については今後のさらなる検討が必要であると考えられた。
|