平成15年度は犬の完全房室ブロック(CHB)4例、猫のCHB9例、犬の洞不全症候群(SS)3例の心臓について、刺激伝導系を中心に詳細な病理組織学的検索を実施した。 CHBの犬4例はいずれも僧帽弁・三尖弁閉鎖不全症と臨床診断されたものである。織学的検索では僧帽弁・三尖弁に生じた粘液腫様変性と線維脂肪組織増生が求心性に中心線維体にまで波及し、ヒス束・脚領域を巻き込んでいた。その結果、ヒス束の貫通部〜分枝部、左・右脚起始部の特殊心筋は脱落・減部数あるいは消失していた。猫のCHBの9例はいずれも肥大型心筋症例であり、組織学的検索では全例に共通してヒス束分枝音および左・右脚の特殊心筋の脱落・減数あるいは消失が認められた。本病変は中心線維体に生じた線維増生によって引き起こされた二次的な変性性変化であった。上述したヒス束〜脚病変は、房室間の興奮伝導を遮断することによりCHBをもたらすのに十分な病変とみなされた。 犬のSSS症例のうちの1例は心電図検査で重度洞停止によるII型SSSと診断され、ペースメーカー埋め込み術中に斃死したものである。組織学的検索では洞結節動脈に広範な壊死性動脈炎と血栓形成がみられ、洞結節隣接領域の固有心筋に硝子様変性〜凝固壊死が認められた。2例目はIII型SSS(徐脈頻脈症候群)との診断後3か月で斃死した例である。組織学的検索では洞結節は高度に萎縮し、結節細胞の著明な減数が認められるとともに、洞結節とその周囲には著しい線維増生が観察された。3例目は先天性のSSS症例であり、洞結節の位置異常、結節細胞数・密度、周囲固有心筋との連続性について画像解析により詳細な検討を加えている最中である。 これまでに得られた結果から、特に高齢の犬および猫に発生するCHB、SSSなどの致死性不整脈は、刺激伝導系ならびにその周囲組織に生じた不可逆的な病変に起因するものであることが示唆された。
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