研究概要 |
4ヵ年の本研究助成により、複数のイヌの炎症性神経疾患に関して新しい知見を得ることが出来た。まず、壊死性髄膜脳炎(NME)や肉芽腫性髄膜脳炎(GME)については、研究代表者らが既に明らかにした自己抗体が、これらの2つの疾患において有意に検出されることが、他機関との共同研究により明らかになった(J.Vet.Med.Sci.66:295-297,2004)。また、これらの疾患の病変形成には、マクロファージや小膠細胞によるMHC-class II発現とT細胞浸潤が重要であり、さらにNMEの病変中には、星状膠細胞やその突起に明瞭なIgG/C3沈着があることが確認された(J.Vet.Med.Sci.65:1233-1239,2003)。この研究結果より、イヌのNMEやGMEは、星状膠細胞に対する自己免疫応答が介在する炎症性疾患であり、特にNMEでは抗体・補体系を介した炎症反応、GMEでは遅延型アレルギー反応等による肉芽腫形成が重要であると考えらた。 この他.イヌの中枢・末梢神経の炎症性疾患である感覚神経症(神経節根炎)についても検討し、その病理発生には、主にT細胞による炎症反応が重要であり、この免疫応答は通常用量のプレドニゾロン投与による抑制が困難と思われた。本疾患についても自己抗体を検索したところ、蛍光抗体法により検出しうる抗体は認められず、類似疾患である多発性神経根炎(アライグマ猟犬麻痺)同様、液性免疫よりも細胞性免疫がより重要と推察された。イヌの感覚神経症では、特に脊髄神経節周囲の後根が重度に障害される傾向が見られるため、同部の特異抗原に対し自己免疫応答が獲得され、求心性に神経障害が生じる可能性が高いと考えられる。本疾患については、国内の学会に研究概要を報告し、学術雑誌への投稿を準備している。 本研究期間内には、イヌ・ネコの神経疾患の中で、感染性疾患、出血性疾患、腫瘍性疾患など本研究の主要目的以外疾患も多数収集された。これらのうち臨床・病理的見地より新規性のある疾患例については、症例報告や調査研究として学術雑誌に内容を公表した。
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