近年、バイオマスや環境汚染物質の分解に高圧熱水を用いる研究がなされている。本研究では、食品廃棄物やバイオマス由来の食品循環資源素材から、高圧熱水によって、バイオケミカルリサイクルに適した部分分解物を得る技術を確立することを目的とし、食品循環資源モデルとして可溶性デンプンを選び、高圧熱水による部分分解反応について反応速度論的に解析した。 カラムオーブン(160〜210℃)内に設置したステンレスパイプに、HPLCポンプを用いて、0.1%(w/v)の可溶性デンプン溶液を連続的に供給した。管内圧力は背圧調節弁を用いて25〜45MPaに維持した。流出液中の還元糖(還元末端基)濃度をソモギー・ネルソン法により求め、還元末端基濃度の定常状態での部分分解反応における種々のパラメータを算出した。 160〜190℃での条件で可溶性デンプンの高圧熱水処理を行った結果、滞留時間の増加に伴い、還元末端基濃度が増加した。しかし、200℃以上の高圧熱水処理では、滞留時間の増加とともに、還元末端基濃度が極大を示したのち減少した。この結果から190℃以下では主にデンプンの加水分解反応が進行し、200℃以上では還元末端基濃度を増加させる加水分解反応と同時に、減少させる糖骨格分解反応も生じることが示唆された。分解反応のみかけの反応初速度は顕著な温度依存性を示し、イオン積の挙動と対応しているように思われた。また、反応速度定数の温度依存性がアレニウスプロットにより良好に記述され、活性化エネルギーは105〜170kJ/molの値を示した。これらの値は亜臨界水による二糖の加水分解における活性化エネルギーの報告値とほぼ等しいことから、二糖の加水分解と本質的に同じ反応機構であると考えられた。活性化体積については、160℃および170℃での値と180℃以上での値とに差が認められ、180℃以上では反応機構が異なることが示唆された。
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