本研究は独自に見いだしたヒト抗体遺伝子発現系を利用して、研究例が皆無に等しいヒト型抗体酵素を効率的に取得する系の構築を目指した。本目的のため、下記の項目について検討した。 ・抗体軽鎖遺伝子の組み換え誘導効率を増大させるための細胞培養系の構築 ・抗体遺伝子組み換えを高頻度に生じるヒト抗体産生細胞株を用いた軽鎖遺伝子の多様性増大系の構築 ・触媒活性を有する抗体軽鎖と基質特異性を規定する重鎖を組み合わせた抗体酵素創製(特定のタンパク質のみを分解するプロテアーゼの創製) 第一の項目に関しては、カフェイン、PKC活性化剤、PARP阻害剤、緑茶カテキンなどにより、培養ヒトB細胞株において軽鎖遺伝子の二次的組み換えを強力に誘導することを明らかにした。また、この誘導に、軽鎖可変領域遺伝子座におけるアセチル化の誘導が関与していることを見いだした。 二番目の項目に関して、独自に発見した高頻度に軽鎖遺伝子組み換えを生じるヒト抗体産生細胞株において、PKC活性化剤を用いることで本来発現しないとされていた可変領域遺伝子の発現を誘導できることを明らかにした。 三番目の検討項目において、上記の軽鎖組み換え誘導において得られた、新たな軽鎖遺伝子を発現する細胞集団の培養上清中のプロテアーゼ活性について検討し、プロテアーゼ活性を有する軽鎖タンパク質を産生するクローンの獲得に成功した。このクローンより軽鎖遺伝子をクローニングし、その配列を検討した結果、V遺伝子とJ遺伝子の組み換え領域におけるN領域の挿入があること、また、この挿入配列により、同じ軽鎖可変領域遺伝子ファミリーの軽鎖遺伝子ともその配列が異なることを明らかにした。一方、この軽鎖タンパク質と重鎖を組み合わせることによる重鎖認識抗原(タンパク質)の分解活性付与の検証までにはいたらなかった。
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