大腸菌とクリソタイルアスベストを200mM NaCl中で混合し、その50μlを2%寒天培地上に滴下し、ストリークバーでスプレッドされた。常に一定の垂直抗力をストリークバーに与えるための装置を開発した。寒天には回転運動が与えられ、一定時間寒天表面はストリークバーでこすり続けられ、すべり摩擦力が与えられた。この操作を寒天曝露と呼ぶ。大腸菌10^7個オーダーを2%寒天培地上で寒天曝露させ、その生細胞を計測した。曝露時間が長くなるに従って生菌数は漸次減少し、120秒の曝露後、生存菌数は10^4個オーダーに減少した。曝露時間120秒において、クリソタイルの方が、クロシドライトよりも、生細胞の減少は大きかった。寒天濃度が0.5%のLB培地上での120秒間の曝露においては生細胞数の減少は起こらなかった。またクリソタイル濃度が高い程、寒天曝露細胞の生菌数は減少した。一方Bacillusを寒天曝露させたばあい、その生菌数の減少は見られなかった。 細胞内にβガラクトシダーゼを発現した大腸菌を寒天曝露させ、細胞外に放出された酵素活性を測定した所、曝露時間が長くなるに従って、細胞外に放出される酵素量は増大した。クリソタイルとともに寒天曝露された大腸菌の走査型および透過型電子顕微鏡による観察はクリソタイルがミサイルのように細胞膜に突き刺ささっている様子を捕らえた。これらの実験結果から細菌細胞をクリソタイルとともに寒天曝露させると、クリソタイルが細菌細胞に突き刺さり、細胞が破裂することを意味している。生存菌数は曝露時間の増大に伴って減少し、水分含量の高い寒天上における曝露では生菌数の減少は見られないことより、クリソタイルが細胞に突き刺さる推進力は摩擦力ショックであると言える。
|