研究概要 |
ポリオキシペプチン,GE3,パプアミドと呼ばれる環状デプシペプチドはアポトーシス誘起作用や細胞周期制御作用,抗HIV活性作用など興味深い生物活性をもつことが知られている。さらにこれらの化合物はピペラジン酸誘導体,3-ヒドロキシロイシン,3-メトキシチロシン,3-ヒドロキシ-3-メチルプロリンといった非蛋白性アミノ酸(異常アミノ酸)を多数含有している。平成15年度は,上記の異常アミノ酸の合成とともに環状デプシペプチド部分の構築について検討した。 異常アミノ酸の合成では,とりわけエリスロ型-3-ヒドロキシロイシンの立体選択的合成に関して,極めて重要な知見を得ることに成功した。すなわち,2-アミノ-3-ケトエステルを水素雰囲気下,触媒量のRu-BANAP触媒を用い,2位アミノ基を無保護とすることで高いジアステレオ選択性かつエナンチオ選択性でアンチ配置をもつエリスロ型-3-ヒドロキシアミノ酸が得られるという知見を見出した。本反応は動的速度論的分割をともなうはじめてのアンチ選択的触媒的不斉水素化反応であり,従来の合成法に比べ非常に優れた方法論といえる。現在,本反応を利用した工業化レベルでの研究に発展している。 環状デプシペプチド部の構築に関しては,酸クロリド-Ag+またはCu+法,BMTB(2-bromo-N-methylthiazolium bromide),DEPBT(3-(diethoxyphosphoryloxy)-1,2,3-benzotriazin-4(3H)-one)が立体的に嵩高いペプチド結合の形成に有効であり,エステル結合の形成にはNCS(N-carbonic acid anhydride)法が優れていることを見出している。これらの知見に基づき,パプアミドに関しては環状部分の合成に成功した。
|