研究概要 |
近年、環境調和型反応としての期待から、天然の酵素触媒を利用する有機合成反応の開発研究が盛んに行われている。そのなかでリパーゼは、カルボン酸類やアルコールの光学分割などによる光学活性化合物の調製に最も汎用されている。我々は、リパーゼの高い分子認識能を活かして、これまで全く報告のない炭素-炭素結合形成などの幅広い分子構築反応の不斉触媒としての利用研究を行っている。既に最近、反応性部位を備えた新アシル化剤エトキシビニルエステル(EVE)を調製し、アルコールの光学分割と導入されたアシル基部分の分子内Diels-Alder反応が連続するドミノ型反応を初めて開発し、更にリパーゼがDiels-Alder反応にも触媒能を有する知見を得た。本年度は計画に従い、動的光学分割を伴うドミノ型反応の開発、この方法論の拡張、リパーゼの触媒活性の向上を検討し、以下の成果を得た。 1.光学分割で残る光学活性アルコールを室温短時間でラセミ化し,かつ酵素反応を阻害しないルテニウム触媒を開発した。本触媒共存下に、ラセミ体の3-ビニルシクロヘキセン-1-オール類を、EVE、リパーゼと共に25〜35℃で攪拌し、リパーゼ触媒光学分割,光学活性アルコールのラセミ化,生成するエステルのDiels-Alder反応の3つの反応が同時に進行するドミノ型動的光学分割を初めて達成することができた。本法によって、種々の生物活性天然物の合成中間化合物として有用な多置換デカリン(90-95%ee、収率69-83%)がラセミ体アルコールから1工程で合成できた。 2.ドミノ型不斉合成法の概念をニトロンの双極子環化付加反応に応用し、光学活性な含窒素多環式化合物の高効率的なone-pot合成法を見出した。 3.リパーゼの触媒活性の向上を継続して検討中である。
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