マグネシウム(II)の酸素親和性を反応制御の基盤とし、2-フルオロ-2-ジエチルホスホノ酢酸とアルデヒドのHWE反応をイソプロピルマグネシウムブロミド条件下に検討した。その結果、(s-Z)-アミドイステアとして創薬化学的に重要なZ体のフルオロオレフィン合成(E : Z=0 : 100)が達成された。しかしながら本反応では、脂肪族アルデヒドを基質とした場合にZ選択性の低下が見られた。すなわち、高いZ選択性を得るためには、マグネシウム(II)の酸素親和性に起因するオキシアニオン中間体の安定化効に加え、カルボキシラートアニオン(ホスホノ酢酸由来)と芳香環あるいは不飽和部位(アルデヒド由来)の遷移状態における反発も重要な要因となるとが示唆された。 そこで、2-フルオロ-2-ジエチルホスホノ酢酸エチルの2位をアシル化し、得られた2-アシル体の水素化ホウ素ナトリウムによるジアステレオ選択的還元反応を検討した。その結果、還元反応に続きHWE反応様のオレフィン生成反応が一挙に進行し、フルオロオレフィンを高いZ選択性(E : Z=〜<1:>99)で合成することに成功した。本反応の立体選択性は、ヒドリドがアシル基を攻撃する際のFelkin-Anhモデルにより合理的に説明できる。 さらに、安価で入手容易な不斉源であるイソマンニドあるいはイソソルビドの各種誘導体を不斉補助基とするホスホノ酢酸エステルを用い、n-ブチルリチウム条件下にσ対称プロキラルケトンである4-tert-ブチルシクロヘキサノンとの不斉HWE反応を検討した。その結果、目的とする含フッ素軸性キラリティー化合物がジアステレオ選択的(〜72% de)に得られた。また、イソマンニドあるいはイソソルビド誘導体を不斉補助基とするキラルホスホナート分子の折れ曲がり構造とジアステレオ選択性の相関が明らかとなった。
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