(1)アシルシランのオレフィン化反応と展開 イノラートとアシルシランを室温で反応させるとほぼ完壁なZ選択性でβ-シリルアクリル酸誘導体を高収率で得ることができた。これはイノラートとカルボニルとの環化付加で生成したβ-ラクトンエノラートが熱的に開環する際に切断される炭素酸素シグマ結合のHOMOとケイ素の空軌道が効果的に重なるために遷移状態が著しく安定化されたためであることが理論化学計算により明らかとなった。本反応の一般性を検証したところ、ほとんど全てのアシルシランで高Z選択性が達成された。本オレフィン化反応は始めての四置換オレフィン化反応の成功例である。唯一の例外はβ-位にもシリル基を有するアシルシランであり、二つのシリル基が競争的に作用したためであろう。また、生成物であるβ-シリルアクリル酸誘導体は官能基変換や炭素炭素結合形成反応が容易である。例えば、エステルを還元後、シリル基をヨウ素に置換しパラジウム触媒のStille反応やHeck反応により四置換オレフィンへ立体保持で変換可能である。 (2)β-シリルアクリル酸誘導体の物性と反応 β-シリルアクリル酸もしくはエステルをヨウ素と直接反応させたところ、意外にもシララクトンが高収率で得らた。本反応を詳細に検討したところ、当量のヨウ化メチルも副生していることがわかった。本来安定なはずの炭素ケイ素結合がヨウ素によりほぼ中性条件化で切断されていることになる。そこで基質であるβ-シリルアクリル酸のエックス線結晶解析を行ったところ、カルボニル酸素がケイ素に分子内高配位した超原子化ケイ素構造を形成していることが明らかとなった。そのためアピカル位にある炭素ケイ素結合が長くなり強い求電子剤であるヨウ素により求電子的に切断されたものと考えられる。分子内高配位による炭素ケイ素結合活性化の新しい方法論である。
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