安定ラジカル、N-tert-ブチルアミノキシル基を核酸塩基部に直接導入した核酸誘導体のスピンラベル化ヌクレオシドとしての有用性の検討を目的とし、プリン塩基またピリミジン塩基にN-tert-ブチルアミノキシル基を導入し、その安定性や挙動を検討した。相補的塩基との水素結合形成時のESRスペクトル変化を検討するため、室温で安定に存在する2-N-tert-ブチルアミノギシルアデノシン、2-N-tert-ブチルアミノキシルイノシン、8-N-tert-ブチルアミノキシルイノシン及び5-N-tert-ブチルアミノキシルシチジン誘導体のESRスペクトルを種々条件下測定した。5-N-tert-ブチルアミノキシルシチジン誘導体は有機溶媒中、グアノシン誘導体と水素結合を形成する条件下、ESRスペクトルが変化した。ESRスペクトルが変化した要因としては、グアノシンとの水素結合形成の結果、5-N-tert-ブチルアミノキシルシチジンのシチジン部分の電子密度分布が変化した、N-tert-ブチルアミノキシル基の自由度が変化した等が考えられる。 2-N-tert-ブチルアミノキシルアデノシンはオリゴヌクレオチドへの導入に成功し、相補鎖との二重鎖形成時ESRスペクトルを精査した。一本鎖では三本線のスペクトルが観測されたのに対し、相補鎖と二重鎖を形成した場合、三本線の高磁場側が消失した。オリゴヌクレオチドの自由度の減少がESRスペクトルが変化したと考えられ、EPRスペクトルにより一本鎖と二重鎖の状態が区別できた。また、2-N-tert-ブチルアミノキシルイノシンのESRスペクトルは、pH依存的に変化し、塩基部の電子状態の変化がESRスペクトルに反映されることがわかった。
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