研究概要 |
E-β-chloro-δ-hydroxystyreneから得られるアニオンのDMF中での環化反応の遷移状態計算を行った(B3LYP/6-31+G^*,SCRF(Dipole, DMF))ところ、活性化エネルギーは14.4kcal/molと小さく充分に合成反応として使えるという結論を得た。さらに驚いたことに、遷移状態においては酸素と脱離していく塩素はオレフィン平面状にある完璧なsp^2炭素上でのS_N2型の反応であった。比較のためZ-Cl体及びdi-Cl体の計算も行った所、これらでは活性化エネルギーが高くπ結合への付加-脱離の遷移状態を通っていることが分かった。対応するフッ素化合物、臭素化合物についても同様の計算を行い、E体のみがsp^2炭素でのS_N2型の反応を示し、Z体およびジハロ体はπ結合への付加-脱離の経路で反応し高い活性化エネルギーを持つことが分かった。ハロゲン間での反応性を比較したところ、F>Cl>BrでS_N2型反応の機構と一致している。なお、E-フッ素体の分子内環化反応はDMF中80度43時間で17%の収率であったという報告がある。 今回、我々はE-塩素体の環化反応を行い、室温12時間で82%の収率、E-臭素体の環化は室温3時間で73%という結果を得た。一方、対応するZ-塩素体からは110度に加熱しても環化体を与えなかった。このようなタイプの反応が分子間反応でも可能かを調べるために、Z-ClHC=CHCH_3とCH_3O-の反応の遷移状態計算を行った所、π結合への付加の方がS_N2型の反応より2.5kcal/mol安定であった。また、β位にメチル基をもう一つ付けるとエネルギー差は3.3kcal/molにひろがり、α位に置換基がつく場合は、S_N2型反応が極めて起こりにくくなる。S_N2型の反応は立体障害を受けやすいことと一致している。我々が見つけた分子内反応の場合π結合への付加の時大きなひずみがかかり、それがS_N2型遷移状態を取る要因となっていると考えられる。
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