研究概要 |
縮合6員環ヘテロ化合物であるイソキノリン誘導体は,医薬品など生物活性物質の重要な構成分子であることは良く知られている.しかしながら,これら化合物の試薬としての活用は塩基以外あまり知られていない.縮合反応(エステル化,アミド化)は有機合成反応の基本反応であり,幅広い有用化合物(医薬品など)の合成に適用され,この分野の研究は活発に展開されている.我々はイソキノリンとBoc_2Oから容易に生成する1-tert-butoxy-2-tert-butoxycarbonyl-1,2-dihydroisoquinoline(BBDI)が,これまでに前例のない極めてユニークなBoc化剤であることを見いだしている.今回,更なる本試薬の機能性を開発することを目的とした.カルボン酸のBoc体がアシル活性化体に成りうると考え,BBDIを新規縮合剤として利用する1工程でのカルボン酸のエステル化を検討した.カルボン酸としてN-保護アミノ酸を用いて,エステル化を検討し,当量のアルコールとBBDIを用いて行ったところ,高収率でエステル体が得られた.本反応は従来のエステル化剤と異なり,塩基を必要とせず,1工程で反応が進行すること,さらに,後処理の分液操作で容易に試薬由来生成物を除去できるという利点がある.また,HPLCでの測定によりラセミ化が全く起こっていないことも確認された.アミド化に於いてもほぼ当量の種々のカルボン酸,BBDI,アミンとで高収率で進行した.アミン塩酸塩を用いても新たに塩基を加えることなくアミド化が進行した.さらに有機触媒化への応用を検討したところ,10モル%のBBDIおいても,N-保護アミノ酸を用いるエステル化は先と同様に高収率で進行した.触媒的エステル化では長い反応時間を要した.イソキノリンに電子供与置換基を持った6-メトキシイソキノリンから生成した第二世代BBDI型縮合剤は触媒的エステル化の反応時間を大幅に短縮化した.触媒化はプロセス化学への道を開くものであり,有機触媒的縮合剤はほとんど知られていない.環境への負担を軽減するような有機合成反応の開発が望まれている中,本研究は新世紀にふさわしい,環境にやさしい科学研究として期待される.
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