研究概要 |
不飽和糖ヌクレオシドをジメチルジオキシランのアセトン溶液で酸化し、これまで単離されたことのない糖部分1',2'位および4',5'位のエポキシドを調製した。これらのエポキシドはシリカゲルカラムクロマトによって精製することはできないが、NMR等による構造確認が可能であった。有機金属試剤を用いてこれらのエポキシドを開環することにより、各々1'位および4'位に炭素側鎖が分岐したヌクレオシド誘導体を合成することができた。有機アルミニウム試剤との反応において、立体化学を支配する要因について詳細な検討を進めた。1',2'-エポキシドの開環においては、1'位に導入される炭素官能基がエポキシドに配位した試剤のリガンドに由来するのか塩基部のカルボニル基に配位したリガンドに由来するのかが問題となる。塩基部N3位にベンジルオキシメチル基などの保護基を導入すると、2位カルボニル基への試剤の配位が阻害され、1'位α側からの反応が有利となり望みの生成物が選択的に得られた。 一方チミジンから調製した4',5'-エポキシドと有機アルミニウム試剤との反応では、3'位水酸基の立体配置が影響を与え、4'位β側からの試剤の攻撃が有利になる。スレオ体を用いて望みの立体異性体を選択的に合成できた。この研究の応用として、抗HV薬として臨床で用いられているd4Tの4'位炭素置換体を種々合成した。これらの中で4'位にエチニル基を有する化合物にd4Tよりも強い抗HIV活性が認められた。本化合物は、細胞毒性やDNA-polymerase-γに対する阻害もd4Tよりも低く注目に値する。
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