ポリ環状エーテル海洋天然毒には、神経毒性、下痢毒性、抗真菌活性などの強力な生理活性を示すものが多く存在する。本研究では、食中毒の原因物質の一つとして毒化したホタテガイの下痢毒性成分yessotoxinとムール貝の下痢毒性成分adriatoxinの共通ポリエーテル構造部分であるA-F環部の合成研究を行った。 前年度までの研究結果に基づき、本年度は大量合成可能な収束型合成ルートの確立を目指して以下の研究を実施した。6員環エーテルの合成原料となる4炭素キラル合成ブロックをトリアセテルグルカールから4工程で合成した。この4炭素キラル合成ブロックと光学活性エポキシスルホン誘導体を反応後、6-エンド閉環反応などを経てA環アセチレンフラグメントを合成した。さらにラセミ体のエポキシスルホン誘導体と4炭素キラル合成ブロックとの反応から出発してDEF環フラグメントを構築した。DEF環フラグメントの合成では、従来の合成法では環状シリルエーテル保護基を用いていたためグラムスケールの合成では選択的脱保護が困難であることや反応中間体の溶解性が極めて悪いなどの問題点があることが判明したので、今回の研究では環状シリルエーテル保護基をベンジルエーテルに変換した原料を用いて合成を行った。 最後に、A環アセチレンフラグメントとDEF環フラグメントを連結し、三重結合のジケトンへの酸化、ビスジメチルアセタール化、アセタールのトリエチルシラン還元により、yessotoxinとadriatoxinの左半分に相当するABCDEF環骨格を合成することに成功した。
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