海洋生物から発見された微量でしかも特異な生理活性を示し複雑な構造を有する化合物の一群に、巨犬分子構造をもつポリ環状エーテル海洋天然毒がある。それら多くは海洋ブランクトンである有毒渦鞭毛藻の代謝産物であり、神経毒性、下痢毒性、抗真菌性など多彩な生物活性を有する。本研究では、ポリ環状エーテル海洋毒アドリアトキシンとガンビエロールの合成研究を実施した。 1.下痢性貝毒アドリアトキシンの合成研究 アドリアトキシンは、1998年にイタリアの北アドリア海の海岸で有毒渦鞭毛藻により毒化したムール貝から単離された下痢毒性を示す10環性ポリ環状エーテルである。オキシラニルアニオンを用いる合成法を基盤としてA環およびDEF環を合成し、これらをアセチレンで連結する収東型合成法により、アドリアトキシンのABCDEFフラグメントを収東的に合成した。また、オキシラニルアニオンの反応とラジカル環化反応を用いて右フラグメントに対応するHIJ環フラグメントを合成した。 2.神経毒ガンビエロールの合成研究 ガンビエロールは、食中毒シガテラの原因である有毒渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicusから単離された神経毒性を有する8環性のポリ環状エーテルである。オキシラニルアニオン合成戦略によってCD環を構築し、6-エンド閉環反応およびジチアンの反応を用いて順次B、A環を合成する方法で、ガンビエロールの左半分に相当するABCDフラグメントの構築法を確立することができた。
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