植物ホルモン・ブラシノステロイド(BR)は、植物細胞の分化・分裂・伸長に重要な役割を担う一群のステロイド化合物であり、その生理機構解明研究が分子生物学的な手法で盛んに行われている。本課題では、現在、BR研究の中心的テーマとなりつつある輸送、細胞内局在、或いは情報伝達機構の解明研究に有用と考える"BR-機能分子・ハイブリッド型プローブの設計と合成"を目的に研究を進め、以下の成果を得た。 i.天然活性型BRであるブラシノライド(BL)と、その生合成前駆体であるカスタステロン(CS)を出発原料に、BR-機能分子・ハイブリッド型プローブとして、フェニルジアジリン/ビオチン二重標識カスタステロン(BPCS)など、数種の光アフィニティー標識BR、ビオチン標識BR、デキサメサゾン標識BRの合成を達成した。 ii.光アフィニティーBRプローブであるBPCSを用いた光アフィニティーラベル実験により、BRはシロイヌナズナから同定されたBR受容体BRI1と直接結合することを証明、更に、結合する最小ペプチド領域を特定した。 iii.プローブの合成過程で得た26-水酸化CSと26-水酸化BLは、BRの不活性化に関わるシロイヌナズナのCYP72B1、BAS1、及びSOB7遺伝子の機能解析において、それぞれCSとBLの代謝候補化合物の標準物質として用いられ、これらの発現タンパク質が、BRのC-26位を水酸化して不活性化していることが明らかとなった。 iv.本研究に関連して、CSとBL各々について、可能な4種のmono-O-β-D-glucopyranosidesを合成した。これらは、シロイヌナズナから同定されたUPD-glycosyltransferaseであるUGT73C5の機能解析に用いられ、UGT73C5がCSとBLの23位水酸基を選択的にグリコシル化することが明かとなった。
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