本研究の最終目標は、選択的同位元素ラベルと紫外共鳴ラマン(UVRR)分光を組み合わせた、"isotope-edited UVRR分光法"を用いて、薬物とDNAの相互作用のメカニズムを理解することである。本研究課題の目的は、DNA塩基の構造とUVRR強度の間の相関関係を見出すことにある。 アデニン、グアニン誘導体のUVRRスペクトルをいくつかの溶媒中で測定した。UVRRバンド強度をKamlet-Taftの溶媒パラメータを用いて分析した。その結果、プリン環のラマン強度は、主に溶媒の水素結合供与能に依存することが解った。 一方、塩基のスタッキング相互作用により塩基のラマン強度が小さくなることも良く知られている(ラマンの淡色効果)。スタッキングと水素結合のどちらがラマン強度において支配的であるかを決めるために、cAMP受容蛋白質(CRP)が結合した22-mer DNAのisotope-edited UVRRスペクトルを測定した。CRP-(cAMP)2複合体は、いくつかのグアニンと強く水素結合するが、これらグアニンのスタッキングはほとんど変化しないことが知られている。CRP-(cAMP)2複合体の結合に伴い、これらグアニンのラマンバンドに波数変化が起きたが、意味のある強度変化は見られなかった。この結果は、水溶液中のDNAについては、塩基のスタッキング相互作用の強さがUVRR強度を主に決定することを示している。塩基のスタッキングに対するisotope-edited UVRRスペクトルの鋭敏度を評価するため、ACミスマッチを含む19-merのスペクトルを測定した。DNAのpre-meltingの状態でも、ミスマッチ近傍の塩基のラマン強度の変化が検知できた。この結果は、isotope-edited UVRRスペクトルの強度変化が、スタッキング状態のプローブとして有用であることを示している。
|