医薬品等生体機能性分子のモニタリングには、通例血液や尿が用いられているが、これらの試料の分析では、投与直後数分〜数日の比較的短い期間内の情報しか得られない。しかし、毛髪を試料とすることにより、数カ月から数年と比較的長期間の情報が得られるため、乱用薬物の使用証明に多く用いられてきている。しかし、毛髪分析に対するこれまでのほとんどの研究は、乱用薬物を毛幹部から検出したものであり、毛根部を試料としたものや医薬品を対象とした報告例は少ない。このような背景から、本研究では、医薬品を対象に取り上げ、血中濃度と毛根濃度を測定比較し、血液や尿の代替試料としての毛髪の有用性を検証する。 血液や尿の代替試料としての毛根の有用性を検証し、医薬品等生体機能性分子の分離解析へ応用するため、平成15年度は、β-遮断薬の一種であるプロプラノロールの毛根中及び血中濃度の比較を主に行った。 光学活性医薬品の一つであるプロプラノロールのラセミ体をDAラット腹腔内投与後、毛根濃度をキラルカラムを用いた液体クロマトグラフィ-質量分析法により経時的に測定した。CHIRALCEL OD-RHカラムにより両異性体は2本のピークに完全分離され、両異性体とも2時間以内に最大濃度に達し、同時に測定された血漿濃度と類似の挙動を示した。また、各光学異性体(S-体またはR-体)を同様に単独投与した場合にも血漿濃度と類似の挙動を示したが、単一の異性体を投与したにも関わらず他方の異性体も少量ではあるが確認された。 以上の結果より、毛根は血漿濃度を反影していることが明かとなり、本医薬品の分析に際して毛根は血液の代替試料になりうることが示唆された。今後、S-体からR-体或いはR-体からS-体への体内変換の有無の確認や濃度変化等を詳細に検討し、薬物の動態解析に役立てたいと考えている。また、他の医薬品や生体成分等の生体機能性分子の毛髪分析もあわせて検討する予定である。
|