研究概要 |
生活習慣と社会環境の変化にともなって,インスリン抵抗性から糖尿病に移行する比率が急速に増加している.糖尿病はひとたび発症すると治癒することはなく,合併症を引き起こしたり,動脈硬化性疾患の発症・進展を促進するため患者のQOLを著しく低下させるのみではなく医療経済学的にも大きな負担を社会に強いることになる.申請者はインスリン抵抗性とレドクス恒常性との関連性から,細胞外において抗酸化能を発揮する唯一のSODアイソザイムであるEC-SODのレベルとインスリン抵抗性病態との関連性に着目し,(1)インスリン抵抗性の指標としてのEC-SOD測定,(2)インスリン抵抗性改善薬の適正使用のための評価法としてのEC-SOD測定の有用性を明らかにすることを目的とし,本研究に着手した. 1.糖尿病患者の血漿中EC-SODレベル 糖尿病患者の血漿中EC-SOD濃度は,空腹時血糖値,body mass index(BMI),インスリン抵抗性指数(HOMA-R)との間に有意な負の相関性を示し,一方,血漿中アディポネクチン濃度との間には有意な正の相関性を示した.EC-SODと総コレステロール,HDL-コレステロール,LDL-コレステロール,トリグリセリドなどの脂質パラメーターとの間には有意な関連性が認められなかった. 2.塩酸ピオグリタゾン治療による血漿中EC-SODレベルの変動 19名の患者において,塩酸ピオグリタゾン治療開始約3ヶ月後には,血漿中EC-SOD濃度は有意に上昇した.また,血漿中アディポネクチン濃度も有意に上昇した.一方,塩酸ピオグリタゾンの投与を受けていない患者の場合,EC-SOD,アディポネクチンとも有意な変動は認められなかった. 以上のように,血清中EC-SODレベルはインスリン抵抗性病態において有意に低下すること,塩酸ピオグリタゾンによる病態改善の有用な指標となることが判明した.
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