研究概要 |
ヒト全血のPAF-AH活性についてその活性分布を調べると、赤血球は全活性の30%近くを占める。また、多形核白血球および血小板にもPAF-AH活性は検出できるが、血液全体のPAF-AH活性に占めるこれらの細胞の割合は非常に低い。これまで、血漿型PAF-AHに関しては、詳細な研究がなされてきたが、赤血球のPAF-AHについてはその存在は報告されていたものの、これまでに明らかにされてきた細胞内PAF-AHサブタイプ(I型およびII型)との関係については全く不明であった。そこで、この酵素の構造を同定するために、酵素源として大量に入手可能なブタ赤血球より、この酵素の精製を行った。精製のステップとして用いたNi-カラムクロマトグラフィーにおいて、酵素活性は2種のピークに分離して溶出し、Niカラムに強く吸着する酵素活性についてはSDS-PAGE上単一に精製することができたため、部分アミノ酸配列分析を行った。その結果、ブタ赤血球に存在するPAF-AHはウシ脳より最初に見出されたI型PAF-AHのα_1/α_2ヘテロダイマーであることが明らかとなった。更に、特異的抗体を用いた免疫学的検討から、ブタ赤血球にはα_2/α_2ホモダイマーも存在することが分かった。また、ヒト赤血球について、免疫学的な検討を行い、同様な結果を得た。I型PAF-AHに関するこれまでの報告によると、α_1サブユニットは胎児期にのみ発現し、成体で発現する組織は現在報告されているところでは,輸精管中の精祖細胞のみである。また,血液細胞で比較したところ、ヒト血小板および多形核白血球にも、I型PAF-AHは検出できるが、α_1サブユニットは存在せず,そのほとんどはα_2/α_2ホモダイマーであることが分かった。赤血球にはPAFの前躯体であるアルキルエーテルリン脂質は存在しないため、細胞内でPAFが合成されない。今後は、赤血球に存在するI型PAF-AHのα_1/α_2ヘテロダイマーの役割を明らかにするために、α_1あるいはα_2サブユニットを欠損したノックアウトマウスを用いた解析を行っていく予定である。
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