ジヒドロピリジン化合物は高血圧や狭心症の治療に汎用されており、その作用点はL型カルシウムチャネルであると信じられてきたが申請者はそれ以外の作用と薬物のプロフィールとの関係に注目している。エホニジピンに関しては、ジヒドロピリジン系降圧薬の最大の副作用である反射性頻脈がきわめて少ないという優れたプロフィールが臨床の場でも高く評価されているが、この性質はT型カルシウムチャネル抑制作用で説明できた。心筋および強制発現系を用いて類縁化合物の中からT型カルシウムチャネルをより強力かつ選択的に阻害するものを探索した結果、エホニジピンの光学異性体、R(-)-エホニジピン[R(-)-EFO]を見いだした。クロライトチャネル阻害に関しては申請者はジヒドロピリジン化合物AHC-52およびPAK-200が冠動脈灌流モルモット心室筋標本の虚血再灌流後の収縮力回復を著明に促進することを発見した。同様の作用はβ遮断薬やカルシウム拮抗薬、カリウムチャネル開口薬にも見られる。しかし、これらカチオン系を就職する薬物達が心臓収縮力を著明に抑制するのに対して、AHC-52およびPAK-200は心抑制を伴わずに心筋を保護するという優れた特徴を有していた。これはAHC-52およびPAK-200がジヒドロピリジン化合物であるにもかかわらずL-型カルシウムチャネル抑制作用を持たないことで説明できた。AHC-52およびPAK-200は虚血時のミトコンドリア機能およびATP量を維持する作用を有していたが、これは申請者らが最近見出したナトリウムカリウム交交換機構阻害薬SEA0400の心筋保護作用と共通する性質であった。本研究が端緒となり、ジヒドロピリジン系化合物のL型カルシウムチャネル阻害以外の薬理学的プロフィールが明らかになり、新しい作用機序を持った心筋保護薬が開発されることを期待する。
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